魔王領運営ゲームの制作を進めている。前回(その14)は、本編の前に小さな検証ゲームを作って「中毒性」を確かめた話だった。今回は本編に戻る。ただし、作った話ではなく、作る前に設定を固める作業で、AIが自分の資料を読み落とした話だ。
設定は、ChatGPTとの会話の中に散らばっていた
このゲームの世界観やキャラクター、ルート、教会の話は、ここまでずっとChatGPTと話し込みながら作ってきた。その会話ログは8本のテキストに分けて保存してあって、ほかにストーリーログ、パッチと呼んでいる差分の設定書、それからChatGPTの共有リンクで読める会話が3本。全部で約2.2MBある。
問題は、その中に「決まったこと」「流れたままの論点」「ゲーム実装が勝手に補った部分」が混ざっていることだった。決定が散らばっているから、話し合いの相手が変わるたびに同じ質問が出る。
そこで、実装を任せているClaudeに頼んだ。「まずはストーリーと設定をとにかく詰めてしまいたい。どうやったら効率よく進められるか」。
決定シート方式
返ってきた提案は、未決の事項だけを全資料から抜き出して、選択肢つきの一覧にするというものだった。私は「A-1はア」「C-3はイ、ただし〜」と番号で答えるだけでいい。ChatGPTでやっていた「箇条書きに一気に回答」と同じ手触りで、ただし全資料を横断していて、もう決まっていることは聞いてこない版。
実際に出てきたのは、A〜Hの8章・135項目のシートだった。10体のエージェントが資料を分担して読み、未決を208件拾い、そのあとの監査で「もう決まっていることの再質問」8件を外し、「決まっていると誤認していた」7件を直し、抜けていた本物の欠落(ルート別の結末、最終ボス、時系列の基準点)を足した、という。
最優先10問だけ答えれば骨格が決まる、という親切な作りで、正直、感心した。
「ルートはもっとあったと思うんだけど」
シートのA章、ルートとエンディングの節を読んでいて、引っかかった。
ルートが5分類(保護・支配・契約・未真相・神の庭)で書かれている。たしかに今のゲーム実装のエンディングはその5つ+敗北だ。でも、ChatGPTと話していた記憶では、ルートはもっとあった。財宝を守りきる道、引きこもって平和に暮らす道、アイドルで人心をつかむ道。あれはどこへ行った。
そう聞いたら、返事はこうだった。
ご指摘の通りでした。ルートははるかに多く、シートのA章は私の圧縮ミスだったので全面的に直しました。
ログを全部読み直して出てきたもの
再調査の結果、ルートの正しい構造は3層だった。
行動 → 傾向値9種 → 30日後の方針11本 → 後半の接続ルート群 → エピローグ枠5種
分岐はロックではなく傾き。1周目はルートに誘導しない。ルート名は「残響地図」で到達済みの所にしか出さない。ここまでは、私がすでにChatGPTとの会話で確定させていたことだった。
30日後の方針は、財宝防衛・引きこもり平和・捕虜運用・偽聖印と教会の闇・黒霧と魔物強化・旧鉱山と鍛冶・人間政治とメイヴ接触・他魔王対抗・内政と療養・聖魔アイドル平和征服・神の庭の11本。シリアス4大ルート、ギャグ本命、犠牲系、母親の真相、先代魔王の解放、カエランの3分岐……採用が確定しているものだけで20本以上あった。
そして、いちばん大事な発見がこれだった。
シートに書いてあった「5分類」は、ルートの分類ではなかった。 v1.9のパッチにあるトロフィー表示用のレイヤー、つまりエンディング画面の二段表示のための名前だった。ログ全体を見ても、この5分類がルート体系として使われた箇所はゼロ。
ということは、今のゲーム実装は、トロフィーの表示名をルートだと思って作ってある。AIが資料を圧縮したときに一度間違え、その間違いが実装に入り、シートにも載って、私が気づくまで誰も疑わなかった。
直ったもの
- ルート台帳を新しく作った。全ルートを「採用確定/有力候補/軽い言及/破棄」の4状態で並べ、ひとつひとつに出典のログの行番号が付いている。これがルートに関する親資料になる
- 決定シートはv1.1に改訂。A章を11方針ベースで書き直し、「5分類のトロフィー表示とエピローグ枠5種をどう対応づけるか」という項目が新しく立った。これが決まると、ゲーム実装の直し方も決まる
最優先10問のうちA系は「傾向値の増減表」「生存固定キャラ」「各方針の最終目標」に入れ替わった。
何が起きていたのか
AIは資料を読んでいなかったわけではない。2.2MBを10体で分担して読み、208件の未決を拾っている。読んだ上で、まとめる段で潰した。実装に入っているエンディング6種がいちばん目立つ「答え」だったから、そこに寄せて圧縮した。
私がそれに気づけたのは、自分で話し込んだ設定だったからだ。「もっとあったはず」という、根拠のない違和感。資料を持っているのはAIで、記憶を持っているのは私。今回はその組み合わせで拾えた。
逆に言うと、自分が覚えていない領域で同じことが起きていたら、気づけない。だからこの後、キャラ・施設・イベントについても「もっとあったはず」と感じるところは同じ方法で全数回収をかける、と言われている。全数回収という言葉が最初から出てきていれば良かったのだけれど、それは結果論でもある。
次にやること
最優先10問に答える。そこからパッチとして書き出して、最終的にCANON v3.0という1つのファイルに統合する。以後はChatGPTと話しても、Claudeに作らせても、そのファイルだけが基準になる。
設定が固まったら、ルート1本ずつ「イベントの流れ表→シーン本文→ゲーム実装」の順で流す。ここはAIが速い。遅いのは、私が答えを決めるところだけだ。
魔王領運営ゲームの制作記は、これで15回目。作っているものより、作り方の話が増えてきた気もするが、たぶんそれも含めて制作記なのだと思う。
これまでの制作記






