夕暮れの路地を走っている。抱えているのは、引退した魔王が方向音痴の勇者に宛てた手紙。角を曲がれば貴族の馬車が突っ込んでくるし、頭の上からは植木鉢が降ってくる。残り時間は6秒。音楽が急かすように速くなる。届け先の旗は、もう見えている——

そういうゲームを作った。『カットビ配達くん!』。ブラウザで開けばそのまま始まる。無料で、1プレイは数分。スマホでもいい。なんなら読む前に、一回走ってきてほしい。

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元ネタは1990年のPCエンジン

カットビ!宅配君』というゲームを覚えている人は、どれくらいいるだろう。1990年にFaceが出したPCエンジンのソフトで、行き交う車をかいくぐって荷物を届ける。ドット絵の配達人が車の隙間を縫っていくあの画面が、36年経っても頭のどこかに残っていた。

あの「届けるだけで面白い」の骨格を、剣と魔法の世界に持っていったらどうなるか。車の代わりに馬車が走り、通行人の代わりに冒険者とスライムがうろつく街を、飛脚の少年が駆け抜ける。そういうリスペクト作品だ。

作り方はいまどきだ。実装はAI(Claude)に丸投げして、自分はひたすら遊んではダメ出しする係。2日間で30回作り直した。この記事の後半は、その30回で見つけたものの話でもある。

届け物には、ぜんぶ事情がある

ルールは単純だ。依頼人(!マーク)から荷物を受け取り、届け先(旗)まで走る。届けるたびに残り時間が延びる。ぶつかれば弾かれて時間を失う。時間が尽きたら終わり。それだけ。

ただ、この街の依頼はどれも少しおかしい。

  • 引退した魔王と勇者は、いまも文通を続けている
  • 吸血鬼のノクスが注文するのは日傘
  • 商家の令嬢サラは、スコーンをめぐる長い戦争の最中らしい

そして時々、届け物そのものが逃げ出す。荷物が、鶏だからだ。

依頼は全部で73件。受け取るときに依頼人が一言しゃべり、届けた先でオチがつく。登場人物には全員顔があって、走っているうちに街の人間関係がだんだん見えてくる。配達ゲームを作ったつもりで、街の噂話を運ぶゲームができていた。

実は最初のバージョンには、この依頼がなかった。ただ荷物を運ぶだけ。遊んでみたら単調で、10分で飽きた。「配達に短い物語をつけてくれ」と注文したところから、このゲームは化けた。

走る理由が「時間が延びるから」ではなく、「この手紙の返事が読みたいから」に変わったのだ。

街には時間が流れている

区をひとつ走りきるごとに、街の時間帯が進む。朝の市場、真昼の大通り、夕暮れ、宵闇、星降る夜、そして道の凍る夜明け前。8区まで走れば、ゲームの中の一日を走り抜けたことになる。

変わるのは色だけじゃない。音楽も切り替わる。BGMは3曲、朝はのんきに、星降る夜はきらきら疾走して、夜が深いほど重くなる。残り時間が尽きかけると曲が前のめりに加速するので、心臓に悪い。

30回の作り直しでいちばん驚いたのはここだった。敵を増やすより、ギミックを足すより、「同じ街の光と音が移り変わる」ことが、飽きずに走り続けられる最大の理由だった。同じ道でも、夜に走ると別の場所になる。

稼いだ金で楽になるか、スコアに残すか

道中には「よろず屋」がある。早馬、転移の巻物、火球の杖、時間を戻す砂時計。ただしこの店、支払いは所持金=スコアから引かれる。楽をした分だけ、記録は削れていく。この綱引きは自分でも気に入っている。

ちなみにテスト中、火球の杖を買えるだけ買ったら無敵になってしまったことがある。追っ手も野良犬も、全部焼けば済む。慌てて「鎧の衛兵と馬車には弾かれる」仕様に直した。おかげで今は、追っ手を焼こうとしても、間に衛兵がいると鎧に弾かれて届かない。追っ手にとっては、衛兵が盾になる。バグを潰したら、撃つ角度を考える駆け引きがひとつ増えた。開発でいちばん得した瞬間だ。

ランキング機能も作った、結果画面から登録できて記録が残る

操作は移動とダッシュだけ

PCは矢印キーかWASD+スペース。スマホは画面をドラッグして、ボタンでダッシュ。覚えるのはこの2つ。日本語のほかに英語版もあって、動画や配信で使ってもらうのも歓迎だ。

むしろ製作者のはずの自分も最高9区までしかクリアできていない。
上手い人のプレイ動画とか見てみたい。

100区の果てに、首なし飛脚が待っている

クリアした区の数で称号が決まる。「見習い使い走り」から始まって全21段階。8区で「一日を走り切る者」、30区で「伝説の配達人」。その先は走って確かめてほしい。ただ、ひとつだけ。100区まで行くと、”先輩”が迎えに来る。壁をすり抜けて追いかけてくる、首のない飛脚が。

結果はランキングに登録できて、称号カードでXに共有もできる。部門は6つ。スコア、到達区、区ごとのタイムアタック、被弾の少なさ……どんな走り方をしても、何かしら自慢できる数字が残るようにしてある。作者の記録は、たぶんすぐ抜ける。

あと、難しすぎて後半の難易度調整とか一切していない、100区って物理的に無理なのでは?と思っていたりもする。

36年目の答え合わせ

車をよけて荷物を届けるだけのゲームが、なぜこんなに忘れられなかったのか。30回作り直して、すこし分かった気がする。走り続けさせるのは敵の数でもギミックの量でもなく、「次の角の向こうが見たい」と思わせる何かだ。手紙の返事も、暮れていく空も、壁をすり抜けて追ってくる先輩も、ぜんぶそのためにある。

まずは1区、朝の市場から。「この区は素直だ。道を覚えろ」と、衛兵も言っている。

夜明け前の凍った道で、また会おう。

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