木の机の上で、虫めがねが白紙のカードの束に置かれ、横に木の湯桶とたたんだ手ぬぐいがある

温泉ブログ(温泉ランド.com)では、10月の下旬に、温泉地を1か所ずつ取り上げる案内記事をAI(Claude)と書いていた。

僕が「次の温泉地」と送ると、AIが温泉地を3か所選び、宿を絞り、調べて、下書きまで作る。僕は報告を受けて「公開して」と返す。10月21日から27日までの記録で、僕が書いた言葉はこの2つと、楽天トラベルが止まっていた朝の「もどった?」だけだった。

AIは記事を書く前に、その温泉地の検索の候補(サジェスト)を取っていた。検索窓に温泉地の名前を打つと、下に続きの言葉が並ぶ。あれのことだ。取れた数は、美又温泉で196個、七沢温泉で240個あった。

候補の言葉は、その温泉地について、読む人が何を気にしているかの目印になる。ただ、言葉が指していた事実は、言葉だけを見て想像するものとはずれていることがあった。

候補の言葉は「調べてほしいこと」に回していた

AIは、候補の言葉をそのまま記事に書いてはいない。気になる言葉を拾って、調べ係に「これは何のことか」と頼んでいた。調べ係は、AIが自分の下に出す、調べ物だけをする子のAIだ。温泉地1か所に1人ずつ付く。

AIは僕への途中の報告で、こう書いている。

検索の候補語に出ていた言葉を、公式の情報で確かめてもらっています。

調べ係のメモには、1行ずつ印が付いている。

  • 【公式】市や観光協会、宿自身、バス会社などのページを、直接(またはページを読み込む道具で)読んで確かめた
  • 【要約のみ】検索結果の要約しか読めていない
  • 【分からない】公式で見つからなかった。推測では埋めない

この印が、あとで「書くか、書かないか」を分ける目安になった。

「閉館」は、宿ではなく日帰りの施設だった(島根県・美又温泉)

美又温泉の候補には「閉館」「改修」「工事」「工事中」が並んでいた。言葉だけを見ると、宿が閉まったのかと読めてしまう。

調べ係が浜田市のお知らせで確かめると、閉館したのは「美又温泉国民保養センター」だった。日帰り入浴ができた施設で、2026年3月31日に閉館している。市の資料には、あとを継ぐ日帰り入浴施設が12月に運営を始める予定とあった。名前は「美又温泉 うるる」に決まったと伝えられている。

同じ候補の一覧には「うるる」「新しい」「愛称」も入っていた。閉館と新しい施設の両方を検索する人がいたようだ。

調べ係は、旅館組合系のサイトが、閉館した施設の料金と時間をまだ載せていることにも気づいた。メモには「このページの料金・時間は使わない」とある。宿3軒の公式サイトには、冬の休業や工事の知らせは見つからなかった。

AIは温泉ランドの記事の冒頭に、閉館と新しい施設の予定を書いた。開く日と料金はまだ出ていないので、日帰り入浴の段で、市の窓口に聞くよう添えている。「改修」「工事」が何を指していたかは、記録からは分からなかった。

「能舞台」は、別の宿の「花舞台」だった(新潟県・蓬平温泉)

蓬平温泉の候補には「能舞台」があった。候補の言葉に宿の名前は付いていない。ところがAIは、調べ係への頼みの中で、これを和泉屋の能舞台として書いていた。なぜ和泉屋と結びつけたのかは、記録に残っていない。

調べ係は、和泉屋の公式サイトと、長岡と新潟県の観光協会のサイトを読んだ。どこにも「能舞台」の字は無かった。舞台があったのは、同じ温泉地の別の宿、よもやま舘だった。毎晩の夕食のときに、川の向こう岸の外の舞台「花舞台」で舞が披露される。

調べ係はメモに、依頼文の「和泉屋の能舞台」は公式では確かめられない、とはっきり書いていた。AIは報告でこう伝えている。

候補語に「能舞台」がありましたが、和泉屋の公式には見当たりませんでした。舞台があるのは、よもやま舘の「花舞台」です。

AIは記事で「能舞台」という言葉を使わず、よもやま舘の段に花舞台のことを書いた。

「クラウドファンディング」は、入口の看板と、立ち寄り湯の再開だった

ネットで支援のお金を集める「クラウドファンディング」も、2つの温泉地の候補に出ていた。

岩手県の金田一温泉には、座敷わらしの言い伝えで知られる緑風荘がある。2009年の火事のあと、2016年に再開した宿だ。調べ係のメモには、候補の言葉からは緑風荘の再建の資金を想像しがちだ、と書いてあった。

確かめると、募集は緑風荘のためのものではなかった。国道から温泉に入る入口に立つ「歓迎標」(歓迎の看板)を、開湯400年に合わせて新しくするための募集だった。2025年に、目標の300万円を超える638万5千円が集まって成立している。AIは記事の冒頭に、このことを一文で書いた。

神奈川県の七沢温泉の募集は、元湯玉川館が、立ち寄り湯を再開するための改修(配管や床、鍵付きのロッカーなど)の費用だった。2回目の募集では目標の20万円に対して32万円が集まった。立ち寄り湯は6月に再開したと案内されていて、観光協会の宿のページにも入浴だけの料金が載っている。AIは記事にも「宿は案内しています」の形で書いた。

七沢の候補には「日帰り 中止」もあった。こちらは、日帰り入浴を休んでいる宿が実際にあった。ただ、宿ごとにばらばらで、県の一覧と宿自身の案内が合わないところもあった。AIは記事で、宿ごとに「入れる」「再開した」「当分の間中止」を一覧にした。

「ハイキュー」は、公式に無かったので書かなかった

金田一温泉の候補には「ハイキュー」(高校バレーボールの漫画)「ハイキュー部屋」もあった。

調べ係は、宿の公式サイト、観光協会、市のページを読んだ。どこにも出てこなかった。旅行の口コミに投稿があるだけだった。メモには「宿の公式を確かめるまで書かない」とある。

AIの報告はこうだった。

候補語の「ハイキュー」は公式に見当たらなかったので、書いていません。

検索する人がいる言葉でも、公式で確かめられなければ記事には入れない。いちばんはっきり線を引いた例だった。

「休館」の字も、宿が休む話ではなかった

同じことは、検索の候補とは別のところでも起きていた。AIは、宿の楽天のページの文から「休館」などの字を拾い出し、出たら中身を読んでいた。

  • 福島県・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルは、館内の居酒屋が休んでいるという話だった
  • 島根県・さぎの湯温泉の安来苑は、足立美術館の休館日の話だった
  • 富山県・庄川温泉郷の三楽園は、口コミの「改装」という言葉を拾っただけだった

3軒とも、宿が休むという知らせではなかった。字だけで判断すると、宿が休みだと取り違えてしまう。

候補の言葉と、実際と、AIが記事に書いたこと

候補の言葉実際はAIが記事にどう書いたか
美又温泉 閉館日帰り入浴ができた国民保養センターが3月31日に閉館。あとを継ぐ施設が12月に開く予定冒頭に書き、日帰り入浴の段で、開く日と料金は市に聞くよう添えた
蓬平温泉 能舞台公式に「能舞台」は無い。舞台はよもやま舘の「花舞台」「能舞台」は使わず、よもやま舘の段に花舞台を書いた
金田一温泉 クラウドファンディング温泉の入口の歓迎標を新しくする募集。2025年に成立冒頭に一文で書いた
金田一温泉 ハイキュー公式に見当たらない。口コミだけ書かなかった
七沢温泉 クラウドファンディング元湯玉川館が立ち寄り湯を再開するための改修の費用宿の段に「宿は案内しています」の形で書いた
七沢温泉 日帰り 中止休んでいる宿はあるが、宿ごとにばらばら宿ごとの一覧にした

書くか、書かないかの線

記録を読み返すと、線の引き方は次の4つにまとまっていた。

  1. 公式で確かめられたことは書く。宿や市が言っていることは「宿は案内しています」のように、だれの話かを付ける
  2. 要約でしか確かめられなかったことは書かない。山梨県の芦安温泉では、バスの「土日祝に走らない便もある」という一文を、根拠が要約だけだとして外していた
  3. 資料どうしで食い違うときは、両方を書いて、どこに確かめればよいかを添える。広島県の鞆の浦温泉では、子どもが泊まれる年齢が楽天と宿の公式サイトで違ったので、両方を書いて宿に確かめるよう添えていた
  4. 公式で見つからなかったことは書かない。読む人が検索していても書かない

記事を書いたあとには、材料に無い事実が入っていないかを、AIが検査にかけていた(AIに温泉記事を書かせたときの仕組みの話)。ただ、検査は材料と照らし合わせるものだ。材料に何を入れるかは、その前の調べ物で決まる。

分かったこと

検索の候補の言葉は、読む人が気にしていることを教えてくれる。美又温泉の「閉館」も、金田一温泉の「クラウドファンディング」も、記事に書く価値のある話だった。

でも、言葉が指している事実は、言葉の並びからは分からない。「閉館」は日帰りの施設、「クラウドファンディング」は入口の看板、「能舞台」は別の宿の花舞台だった。1つずつ公式の情報で確かめて、確かめられないものは書かない。それで、営業している宿を「閉まった」と書かずに済んでいる。

僕はこの間、「次の温泉地」と「公開して」を送っていただけだ。どこまで書いて、どこで止めるかの線は、AIと調べ係が記録の中で引いていた。

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