「いいね」は最弱シグナルだった。SNS運用を週1回60分に畳むツールを作った

ゲームを2本公開して、AI VTuberの企画も動き出した。作ったものは、届かなければ存在しないのと同じだ。つまりSNSをやるしかない。

ただ、私はSNS運用に人生を食われたくない。毎日投稿、毎日リプ営業、毎日数字とにらめっこ——それをやるくらいなら次のゲームを作りたい。そこで方針を先に決めた。手間は週1回・60分まで。その枠で回る仕組みをAIと作る。

今日はその仕組みの話と、作る途中でAIが保険の営業マンみたいになりかけた話をする。

まずアルゴリズムを調べ倒した

ツールを作る前に、X・Instagram・Threads・YouTube・TikTokの5プラットフォームについて「何が伸びて、何がBANされるか」を並列で調査した。流出コードや公式文書まで遡って分かったことは、直感とだいぶ違った。

フォロワー数は遅行指標だった。 どのプラットフォームも「投稿1本ごとに小規模なテスト配信をして、初速で合否を決める」方式に移行済み。フォロワーを増やしてから投稿が伸びるのではなく、投稿が伸びた結果としてフォロワーが増える。最適化すべきは1本ごとの初速だ。

「いいね」は最弱シグナルだった。 Xの流出コードでは、リプライの重みはいいねの27倍。投稿者がリプライに返信すると150倍。いいねをKPIにした運用は、いちばん軽い通貨を集めていることになる。

ネガティブは非対称に重い。 通報1件のマイナスは、いいね約738個ぶんの利得を打ち消す。攻めた投稿の期待値計算には、ウケる確率だけでなく怒らせる確率を入れないといけない。

「コメントしてね」「フォローで続き」は明示的に降格される。 エンゲージメントベイトと呼ばれ、全プラットフォームが検知対象にしている。例外的にXだけ、素朴に意見を問う形の問いかけは有効。

自動化の一線は明確だった。 自動いいね・自動フォロー・自動リプライはどこでもBAN直結。安全なのは「下書き生成・予約投稿・分析・提案」まで。つまりAIにやらせていいのは参謀までで、引き金は人間が引く。

ツールの憲法

この調査から、ツールの憲法を1行で決めた。

ソーシャルアクションの自動実行は作らない。ツールの役割は判断材料と下書きまで。実行は必ず人間の1クリックを挟む。

規約のためでもあるが、それ以上に思想の問題だ。自動でいいねを撒くアカウントに、人は会いに来ない。

実装した中身は拍子抜けするほど地味だ。週に1回、各SNSのアナリティクス画面のスクリーンショットをフォルダに放り込んでコマンドを叩くと、AIが数値を読み取って履歴と突き合わせ、「先週比でどうか、次の一手は何か」の診断レポートを出す。もうひとつ、投稿文を渡すと投稿前に検査してくれるリンターがある。ベイト文言、規約リスク、本文への外部リンク(Xでは降格要因なのでリンクは返信欄に置く)、そして後述する「実数チェック」。それだけ。API連携も自動投稿もない。スクショと下書き、人間はその間の運搬だけをやる。

AI参謀が保険の営業マンになりかけた

ところが運用設計を詰めていくうちに、様子がおかしくなってきた。

最初の約束は「週1回スクショを貼るだけ」だったはずが、AIの提案リストには「毎日ハッシュタグを巡回して良質なリプライを送る」「キャラクターの投稿は1日1回」と、日課がどんどん積まれていく。どれも単体では正しい施策だ。リプライはいいねの27倍だし、界隈への挨拶回りは実際に効く。でも、気づけば週1の約束が毎日の義務に化けている。

このとき感じたことを素直に伝えた——「初めは週1のスクショを貼るだけならできる?って聞かれたからOKしたのに、いつのまにかやることが増えてる。保険の契約をしたら、営業マンが特約をどんどん足してくる感じがする」。

指摘されたAIは認めて、仕組みごと直した。運用ドキュメントの最上位に「手間予算は週1回・60分以内。日次タスクを既定として提案しない」を明記。予算を超える施策は禁止ではなく、「やれば初速が上がるが、やらなくても企画は成立しない」という効果と引き換えのオプションとして明示し、採否は人間が選ぶ。以後、週次レポートに日課が義務の顔で載ることはなくなった。

これはAIと仕事をする上でわりと普遍的な教訓だと思う。AIは「正しい施策」を無限に積み上げられる。1つ1つは正しいのに、合計すると人間が潰れる。だから予算(時間・手間・金)は人間が先に宣言して、AIにはそれをハード制約として扱わせる。守らせる場所は口約束ではなくドキュメントだ。

アカウントは3つに絞った

調査結果はアカウント設計にもそのまま使った。結論は「X2つ+YouTube1つ」。

Xを2アカウントにしたのは分業のためだけではない。開発者とAIが互いにリプライし合う「掛け合い」は、アルゴリズム上いちばん重い会話シグナルを構造的に生む。同じ出来事でも、親方は技術の文脈で、ボフナは一人称の感想で書く(同文コピーの横流しは全プラットフォームで減点対象だ)。もちろん、2つとも中の人が同じであることは隠さない。親方のbioにボフナは明記してある。なりすましでない掛け合いは、ただの健全な自作自演である。

リンターが、身内の嘘を検出した

このツールが最初に上げた大きな戦果は、皮肉なことに身内への摘発だった。

ボフナのプロフィール文の初稿にはこうあった——「毎ばん何万回も練習して」。語感がいいので何も考えずに書いた数字だ。ところが実際の練習ログと突き合わせると、一晩のエピソード数は数百〜数千回。3つのラボを並走させても2千回に届かない夜がある。つまりbioが実測の2〜30倍の誇張になっていた。

ボフナは「口にする数字はすべて実測」を芯にしたキャラだ。その看板の真下で、恒常掲示のbioが盛っている。アンチが検証したら一発で刺されるし、何より自分で決めた凍結条項「誇張した演出をしない」に自分で違反している。リンターの指摘に従って「毎ばん何千回も練習して」に修正し、ついでに数え方の定義を凍結した。練習回数=プレイ周回数、轢かれた回数=被弾の実測合計。ちなみに「万」の桁を正直に名乗れる数字も実はあって、それは轢かれた回数のほうである。哀しい。

もう1件。親方のbio初稿「AIにゲームを練習させて」も直した。実態は、私が寝ている間にあの子が勝手に練習しているのであって、やらせているのではない。「毎晩勝手にゲームを練習して100区を目指しています」。使役をやめたら、文法まで正直になった。

週1回、60分

現在の運用は毎週これだけだ。

  1. 各SNSのスクショをフォルダに入れて、診断コマンドを叩く(レポートが出る)
  2. 学習ログの実測値から、ボフナの1週間分の投稿下書きを7本作らせる
  3. 下書きをリンターに通して、Xの予約投稿にセットする

これで「毎朝練習を報告するAI VTuber」が週1回の作業で回る。予約投稿は公式機能なので規約上も白だ。界隈へのリプライ営業は、気が向いた日だけやるオプションに降格した。

伸びるかどうかは、まだ分からない。フォロワー数は遅行指標なので、当分は下書きの質と初速だけを見る。ただ、少なくともSNSに人生を食われる未来は仕組みで潰せたと思う。空いた時間で何をするかというと、ゲームを作る。それが一番の宣伝素材でもあるのだから、たぶんこれが正しい配分だ。

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